ネットを見ていたら「飲んではいけない薬」だとか
「デュタステリドは前立腺癌を増やす」だとか、
なんだかおかしな話が出回っていますね。
どういうことなんだろう?と思って調べてみたら
週刊現代(2016年6月11日号)の特集が発端のようです。
あのー、その話、極論すぎるというか、
ウソですから。
ざっくりとまとめておきます。
・ デュタステリドを研究した人たちの出した結論は前立腺癌を減らす
・ その論文を根拠に今回主張している人が言っていることは「デュタステリドは前立腺癌を増やす」 はい?
・ 「水を飲んではいけない! たった4リットル飲むだけで中毒になります!」と同じ話
・ ネットでは個人批判すると訴えられるリスクがあります
んじゃ、みていきましょうか。
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デュタステリドは前立腺癌を増やすのか?
デュタステリドは前立腺癌を増やすというのはウソです
この話を広めている人がその根拠にしている研究があるのですが、
その論文を読んでみても「デュタステリドが前立腺癌を増やす」などという記述は、
ありません。
その根拠としている研究がこちら
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa0908127
あのー、結論だけ引用しますね。
Conclusions
Over the course of the 4-year study period, dutasteride reduced the risk of incident prostate cancer detected on biopsy and improved the outcomes related to benign prostatic hyperplasia. (ClinicalTrials.gov number, NCT00056407.)
<訳>
結論
4年間の研究過程を通して、
デュタステリドは生体検査(*)で発見する
前立腺癌の発症リスクを減少した。
また、前立腺肥大に関連する症状を改善した。
*生体検査:検査する人から細胞を取ってきてガン細胞の有無を試験すること
大切な部分なので、繰り返しますね。
引用している研究の結論が
前立腺癌の発症リスクを減少した
なんですよ。
んで、その人たちは一部だけ引用しておきながらこう言ってる訳です。
「悪性度の高い前立腺癌の発症リスクが高まるのは確実」
What?
その人たちがまとめた内容がこちらです。
http://npojip.org/chk_tip/No64-04.pdf
引用してみますね。
●男性ホルモンのテストステロンをジヒドロテストステロン(最強男性ホルモン:DHT)に変換する5-α還元酵素阻害剤であり、同時にエストラジオールを増やす。エストラジオールは最強の女性ホルモンであり強力な発がん剤である。
●脱毛症に用いる場合、長期使用の可能性が大きい。1日最大用量は前立腺肥大症に対する用量と同じであるため、前立腺肥大症に使用時の害は脱毛症の場合にも生じうる。
●脱毛部の毛髪本数は10%前後増加するが、満足度は7段階評価で0.5段階増えるだけだ。一方、男性機能の低下で性欲減退、勃起不全、射精障害、女性化乳房、神経ステロイド減少でうつや自殺、認知障害などが生じる。
●前立腺肥大症のランダム化比較試験(RCT) では、悪性度の高い前立腺がん(グリソンスコア8~10:註1)が、3~4年目にデュタステリド群では14人に発生し、プラセボ群では0人だった(オッズ比28、p=0.0001)。このことが添付文書には記載されていない。
です。
●男性ホルモンのテストステロンをジヒドロテストステロン(最強男性ホルモン:DHT)に変換する5-α還元酵素阻害剤であり、同時にエストラジオールを増やす。エストラジオールは最強の女性ホルモンであり強力な発がん剤である。
これ、ひどいですね。
強力な発がん剤であるって(笑)
勘弁してくださいよ。
ごく普通の女性ホルモンですから。
水は一度に4リットル以上飲むと中毒症状を起こします。
その一面だけをとらえて「水は強力な中毒剤である」と言っているのと同じです。
本当に。
●脱毛部の毛髪本数は10%前後増加するが、満足度は7段階評価で0.5段階増えるだけだ。一方、男性機能の低下で性欲減退、勃起不全、射精障害、女性化乳房、神経ステロイド減少でうつや自殺、認知障害などが生じる。
ソースを見る気すら起こらないですが、
「満足度は7段階評価で0.5段階増えるだけだ」って、
貶めてやろうという思想が強すぎます。
「男性機能の低下で性欲減退、勃起不全、射精障害、女性化乳房、神経ステロイド減少でうつや自殺、認知障害などが生じる。」
ってのもひどい。
そもそも副作用はどんな薬でもあります。
デュタステリドに関して言えば、
他の研究ではプラセボ(偽薬:なんの効果もない錠剤)と
副作用の頻度は変わらないというものもあります。
あえて、この人たちが引用している論文を元に話しますが、
例えば、
ボッキ不全
プラセボ : 4126人のうち65人でボッキできなくなった
デュタステリド : 4105人のうち137人でボッキできなくなった
です。
うん、ちょっと多いかもね。
でも、なんの効果もないものを飲んでも65人がボッキしなくなってるんですよ。
「などが生じる」って、
デュタステリドじゃなくても生じてますけど?
まぁ、実際ちょっとは増えるのでね、完全には否定しませんが、
恐怖をあおるのはやめていただきたい。
薄毛の人をこれ以上いじめるなよ。
女性化乳房
プラセボ : 4126人のうち43人で女性化乳房が生じた
デュタステリド : 4105人のうち76人で女性化乳房が生じた
プラセボで43人がおっぱいおっきくなっちゃってます。
「性欲減退、勃起不全、射精障害、女性化乳房などが起こるかもしれませんよ。」
といって、偽薬(例えば小麦粉の塊)をもらって飲んだ場合、
ノセボ効果でおっぱいが膨らみます。
純粋にデュタステリドだけの影響を考えるために
デュタステリドの人数からプラセボの人数を引くと33人ということになります。
4105人のうち33人です。
1%未満の確率ですよ。
プラセボですら1%の確率で「生じた」わけですが?
他の副作用に関しても似たようなもんというか、
もっとひどかったりします。
これをひとまとめにして、
「男性機能の低下で性欲減退、勃起不全、射精障害、女性化乳房、神経ステロイド
減少でうつや自殺、認知障害などが生じる。」
ですからね、これはひどい。
「生じる」って。ひどい。
みんなに起こることみたいじゃん。
薄毛の人をこれ以上いじめるなよ。
あったまにくる。
●前立腺肥大症のランダム化比較試験(RCT) では、悪性度の高い前立腺がん(グリ
ソンスコア8~10:註1)が、3~4年目にデュタステリド群では14人に発生し、プラセ
ボ群では0人だった(オッズ比28、p=0.0001)。このことが添付文書には記載されてい
ない。
この部分もおかしいです。
私の理解では、
「デュタステリドは前立腺癌のマーカーであるPSAの値を下げることから、
腫瘍が大きくなるまで検査で見落としがちになるため、
発見した時はグリソンスコア8-10が多くなる」
ということです。
その意味で言えば、
PSAの値については多くの記述がザガーロの添付文書に書かれています。
http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065940.pdf
「ザガーロは悪性度の高い前立腺がんを生じさせる」
と書かせたいのでしょうが、おかしな解釈をした主張を載せるわけがないです。
この人たちが根拠にしている論文から引用します。
a finding that supports a mechanism of tumor shrinkage with dutasteride.
訳
〜はデュタステリドの腫瘍を縮小する機能(メカニズム)によるものだろう
ね、
癌を小さくするって書いてます。
その上で、PSAの値が小さくなるバイアスの影響について述べています。
引用しておきます。
Biases could explain the relative risk of 1.27
(95% CI, 1.07 to 1.50) for tumors with Gleason
scores of 7 to 10 in the finasteride group of the
Prostate Cancer Prevention Trial, and models
that account for volume and PSA-driven biases
have suggested that there may be reductions of
12 to 27% in the incidence of tumors with Gleason
scores of 7 to 10 with finasteride.
<訳>
前立腺癌予防試験のフィナステリドの集団において、
グリソンスコア7-10の腫瘍の相対的リスクはバイアスで説明できるだろう。
大きさとPSAが主となるバイアスを考慮すると、
フィナステリドによるグリソンスコア7-10の腫瘍の発生は10-27%減少するだろう。
さらにこう言ってます。
In our trial, there was no significant increase in the
dutasteride group, as compared with the placebo
group, in the incidence of tumors with Gleason
scores of 7 to 10 over the 4 years of the trial,
<訳>
我々の4年間の試験において、
グリソンスコア7-10の腫瘍の発生は
デュタステリドの集団はプラセボの集団と違いがなかった。
もう、いいっすかね。
とにかく、引用元と違うことを言ってたり、一部だけを取り出したり、
めちゃくちゃなことやってるってことです。
突っ込みどころが多すぎて、
書いてて面倒になってきました(笑)
「水は毒だから飲んではいけない! たった4リットル飲むだけで中毒になります!」
これを言っている人がいたら、あなたは、どう思いますか?
ネットでは個人批判すると訴えられるリスクがあります
今回の話でなによりも許せないのが、
医者がノセボ効果をあおっているところです。
ノセボ効果とは何も効果のないものを飲んでも
心配・不安などが原因となって害が起こることです。
「これ、ボッキできなくなる薬ですから。」
と言われて、ふつうの飴玉を舐めさせると、
本当にボッキしなくなっちゃうってやつです。
デュタステリドは特にノセボ効果が問題になっているお薬です。
詳しくはこちらの記事をどうぞ
楽観的な方がデュタステリドやフィナステリドの副作用は少ない?
それを知っているはずの人が不安や心配をあおっているのが許せません。
自分の都合のいいようにデータをつまみとって、
あたかも科学的根拠があるようにみせるそのやり方に、
怒りを覚えます。
洗いざらい指摘・批判してやりたくなりますが、
ネットでは個人批判すると訴えられるリスクがあるので、
やめておきます。
不安なままデュタステリドを使用すれば
心理的影響で起こるノセボ効果によって副作用が出るリスクが高まります。
そのノセボ効果によって本当に起こってしまった副作用で、
デュタステリドによる育毛効果をあきらめることになったら、
取り返しがつきません。
あなたはぜひ正確な情報を手に入れて、デュタステリドの育毛効果を実感してください。
その上で、当サイトの記事を一通り読むことがとても大切ですよ。
それでも前立腺癌が心配だ!というあなたはこちらの記事がお勧めです。
→デュタステリドで育毛するならお酒の量を減らした方が良いですよ
デュタステリドの他の副作用が心配なあなたにはこちらの記事がオススメです。
→デュタステリド(ザガーロ)の長期使用による副作用は心配いりませんよ!
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